藤崎流古武術伝




プロローグ

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―ピピピピピ。

目覚ましの音と共に、雄一郎ははっと目を覚ます。上体を起こし、頭に残っているもやもやを振り払うように首を横に振る。

「ち、嫌な夢だ・・・。なんでまた今頃・・・。」

目を覚ますため、近くのカーテンを一気に引く。強い日差しが部屋の中に入り込む。それでも、雄一郎の気分は晴れなかった。


その夢の出来事は、雄一郎にとって大きな転機をもたらした。あの少年から暴行を受けた時、その少年を血で真っ赤に染めた時から、雄一郎には不思議な力が宿っていた。

その力は、雄一郎の生活の様々な場面で活躍した。走る時はより速く、跳ぶ時はより高く、そして、喧嘩をする時はより強く。
最初の頃は面白がっていた雄一郎も、その力の特異ゆえに、非難の目に晒されるようになり、次第に隠すようになっていった。

その結果、雄一郎は人と馴れ合うことを嫌うようになり、少しずつ心を閉ざすようになっていた。

現在では、周りに気づかれない程度にその力を使う事を覚え、うわべを繕って生活していくことを覚える。おかげで、通っている中学校でも以前のようなひどい扱いを受けることもなくなっていた。

それでも、闇の中に閉ざされた心が開くことはなかった。全ては、人の非情さに触れたから。いざとなれば、その心と一緒に閉まってある力で全てをかき消す思いがあるからであった。


「くだらねえ。さっさと支度だ。」

雄一郎は立ち上がり、布団の上にかぶせた制服を着込む。
床に放ってある鞄の中の教科書を適当に差し替え、それを背負って自分の部屋を出て台所のある一階に足を運ぶ。

台所に入ってくるなり、テーブルに並んでいる朝食を適当にかき込み、洗面所でさっと歯を磨く。

この間の家族のコミュニケーションはほとんどない。それが、雄一郎の家では当たり前になっていた。


起床から約十数分。雄一郎は時間の確認もせずに部屋を出る。雄一郎の登校はいつも遅刻寸前だ。

鬱屈とした気持ちとは正反対に、その天気は晴れ晴れとしたものだった。雄一郎の沈んだ寝起きを忘れさせるような、強烈な日差しだった。


これが夏だったら地獄だろうな。
呑気なことを思いながら、雄一郎はいつもの登校を始めるのだった。


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