藤崎流古武術伝




転校生水琴

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―昼休み。

4時間の授業の後、給食を食べ終えて時間を持て余した雄一郎は、自分の席でくつろぎながら、いつものようにやってくる葵の相手をしている。

「…でね、挟み込んだあとは中段と下段の二択で揺さぶるんだよ。」
「下段の方が補正がかかるだろーから俺は立ちガー安定だな。」

二人が話しているのは、少し前に発売された「ギルティ・ギブ」という格闘ゲームの事である。スポーツが好きではない二人にとっては、趣味の合う数少ない話題であった。

「つーか、お前も変なキャラ使うよな。ブリなんて回りくどい戦法しかできねーだろーによ。」
「雄ちゃんはソリみたいにパワーで攻められるキャラが合ってるかもしれないけど、僕はキャラそのものが好きだからね。」
「あんな女男のどこがいいんだか…。」

昼休みに外に遊びに行く生徒は多い。その次は図書室に行く生徒達。
雄一郎達のように、教室に残ってゆっくりと過ごす生徒はごくわずかで、この教室内も雄一郎達を含めて十人もいない。そんな風景も、雄一郎達にとっては当たり前だった。

「あ、夏奈子ちゃんだ。」

不意に葵が教卓の方に目を移す。そこには、テキストやらラジカセなどを持って教卓に置いている二人の女子生徒の姿があった。

「はあい、葵くん。」
「あ、次ってもしかして英語?」

背の小さい方の女子生徒が葵のつぶやきに答える。

「当たりー。わたしがこれを持ってくる途中、玲ちゃんに手伝ってもらったんだよ。」
「へー、よかったじゃん。一人じゃ大変でしょ。」
「ホントはもう一人係がいるっていうのに…。」

玲と呼ばれた背の高い方の女子がつぶやく。

「夏奈子ちゃんも言えばいいのにー。」
「そう思うんだけど、昼休みになるとすぐ出て行っちゃうからねえ…。」

夏奈子と呼ばれた小さい女子はそう言うが、気にした様子はない。

「あいつは更年期だからな。そこまで気が回らないんだろ。」
「あー、藤崎くん。それっていつも居残りされてる腹いせに嫌味言ってるのー?」
「人聞きがわりいな。俺は事実を言ったまでだ。」
「あはは、先生に言っちゃうぞー。」

そう言って夏奈子はコロコロと笑う。雄一郎達のような目立たない男子とも普通に口が利けるのは、夏奈子特有の朗らかさがあってこそなせる芸当であった。

「夏奈子。準備終わったからもう行くよ。」
「あ、図書室だったね。私も行くー。んじゃ、二人ともじゃあねー。」
「じゃあねえ。」

葵がそう答えると、夏奈子と玲は二人で教室を出ていった。教室は再び静かになる。

「そういえば、夏奈子ちゃんって図書室でも仕事してるんだよね。えらいよねー。」
「どうでもいいけど、あの二人ってホント一緒だよな。全然タイプ違うってのに、よくまあ一緒にいられるもんだ。」
「そうかなあ?意外と合うんじゃないかなあ?ほら、僕と雄ちゃんみたいにさ。」
「俺はお前を手伝ったりしないぞ。」
「そんなあー。」


雛森夏奈子。三年B組女子。クラスの学級委員のみならず、他の委員会をいくつも掛け持ちしている頑張り屋。学校での仕事を不満ひとつこぼさずにこなすひたむきさと、誰とでも分け隔てなく接することのできる明るさでクラスの人気者となっている。誰とでも付き合える分、特定の友人というのが少ない。唯一、深く付き合っている友人は玲くらいのものである。

氷川玲。三年B組女子。物静かでクラス内でも目立たない存在。女子とはそこそこに話すが、男子との付き合いがほとんどない。それでも、部活の剣道の時は、男子達に平気でモノが言える度胸がある性格。唯一付き合いの深い夏奈子も同じ剣道部であるが、委員会の仕事に振り回されており、一緒になることが少ない。

夏奈子と玲の仲がいい事はクラスでは承知の事実であった。部活で苦楽を共にしているうちに、一緒に付き合うようになっている。性格の正反対な二人がどうしてうまくいっているのかは誰も知らず、クラスの中でも話題になるほどの謎であった。


「雛森もアレだな。あんなに仕事を背負い込むと、そのうち厄介事まで押し付けられるかもしれないな。」
「大丈夫じゃないかな。だって、いざとなったら玲ちゃんがなんとかしてくれるよきっと。」
「そういうもんか?」
「そういうもんだよ。」
「野郎が二人で女の話とは。若いねえ。」
「!!」

突然聞こえる背後からの声。二人が振り返ると、聞きなれたその声の主はいた。

「あ、継美ちゃん。」
「ついに現れたか。」

二人に話しかけてきたのは、三年A組女子の伊邪那岐継美であった。夏奈子とはまた別の意味で付き合いの広い彼女は、こうして雄一郎達に絡んでくることはよくある話であった。

「いやあ少年達。青春してるねえ。」
「少なくともお前よりはな。」
「花も恥らう乙女になんたる暴言でしょ。恥を知りなさい。」

雄一郎と継美のいがみ合いが始まる。二人にとっては当たり前のできごとであり、挨拶のようなものでもあった。

「あ、そういえば継美ちゃん、雄ちゃんが朝ねえ、継美ちゃんの話なんか信用できないなんて言ってたんだよ。」
「事実だ。」
「あんたねぇ、この継美ちゃんの情報が信じられないっての?どこぞのギャルゲーのゴシップ女の情報網とはワケが違うってのに。」
「どこぞのギャルゲーってなんだよ?とにかく、お前の話は信憑性というものが足りないんだよ。」

雄一郎のけなし言葉に、継美は含みのある笑いを浮かべる。

「ほう、信憑性ねえ。で、葵。雄一郎と今朝なんの話をしてたの?」
「うんとねえ、転校生の話。」
「来るなんて話は先生からも聞いてねーだろーが。」
「なるほど。でもねえ、転校生が来るからといって先生がおいそれと噂をばらまくという理由にはつながらないでしょ?モノには順序ってのがあるんだから。」
「なんかその言い方だと、ホントに転校生が来るみたいに聞こえるそ。」
「そりゃあ、来るわよ。とびっきりカワイイ女の子がね。」
「え?カワイイの?」

その言葉に反応したのは葵の方だった。女の子という事までは聞いていたが、詳しい事は知らないらしい。

「そうだねぇ。あたしの場合はしっとりとした可愛さだけど、転校生はどっちかって言うとさわやかにカワイイって感じかなぁ。」
「異議あり。特にセリフの前半に異議あり。」
「うっさいなあ。根暗は黙ってなさい。」
「へえ、楽しみだなあ。でも継美ちゃん、どうしてそんなはっきりとわかるの?」
「ん?それはねえ、あたしが持っている情報収集力の賜物と言いますかなぁ…。ヒントは、転校生の学校。…伊邪那岐継美でした。」
「ネタ古っ。」
「おっ、外のメンツが帰ってきたみたいだね。んじゃあねー。」

そう言って、継美は颯爽と教室を出ていった。段々と騒がしくなってくる教室の中、雄一郎と葵はぽつんと取り残される。

「なんだったんだあいつ…。」
「うーん、なんだか余計気になってきちゃったよー。」
「忘れろ。どうせ来なきゃわかんねーだからよ。」
「うーん、まあいいや。僕ももう行くね。」
「おう。」

こうして葵も自分のクラスに戻っていった。昼休みの時間も終わりに近づき、ほぼ全員が席についていた。
雄一郎は、机の中から英語の教科書を出し、それを机の上に置く。そして授業が始まるまで、机に突っ伏していることにする。

「そう言えば俺、宿題やってきてねーや。」

雄一郎は全てを忘れるため、眠りに就くのであった…。


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