藤崎流古武術伝




薬物猟奇

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昼休み。大半の生徒が出ていった教室の中、雄一郎と葵はいつも通りの時間を過ごしていた。

「はい雄ちゃん。これ持ってきたよ。」
「ん?」

葵はスッと手を差し出す。その手にはCDケースがある。可愛らしい巫女のイラストがプリントされたジャケットには「奇怪奇怪」というタイトルが印字されていた。

「なんだこれは?」
「ほら、前に言ってたアクションシューティングだよ。持ってくるからやってみてよって言ってたでしょ?」
「そういえば、んなコト言ってたな。」

葵に言われて、やっとこさ先週あった出来事を雄一郎は思い出す。

「しかしなんだこの絵は?ガキだか女だか向けの絵じゃねーか。俺にこんなのやらせようってのかよ。」
「えー、可愛くていいじゃん。でも絵に似合わず結構難しいから楽しめるよ。意外と奥深いし。」
「どうだかな。全然期待できそうにねーぞこれは。」

雄一郎は葵の手からCDケースを取る。ケースを手に取り、表と裏を簡単に眺めてみる。

「最初、普通の難易度でクリアするのに二週間もかかったんだ。意外と難しいよ。」
「お前がそれなら俺は一週間でクリアしてやるよ。」
「絶対無理だよー。最後の方なんか死にながら戦う感じなんだから。」
「クソゲーならそうだろうが、普通のヤツなら普通にできるっつーの。」
「でも一週間でできるかなぁ?」
「んなもんやってみなきゃわかんねーだろ。速攻でクリアだ。」

事も無げに言い切る雄一郎。葵は苦笑いしながら喋る。
雄一郎は、手にしていたCDケースを机の中にしまいこんだ。

「最近は格ゲーばっかだったからな。たまには他のヤツでもやって暇潰すか…。」
「まあとにかくやってみてよ。面白いのは僕が保証するよ。」
「お前の保証だから心配なんだよ。」
「ひどいよ雄ちゃーん。」


二人の会話に区切りがついた頃、水琴が教室に入ってくる。その後ろには玲が続いて入ってきた。

「あれ、水琴ちゃんと玲ちゃんじゃん。二人でどこか行ってたの?」
「うん、玲ちゃんと保健室に行ってきたんだ。」

葵の切り出しに、水琴は珍しい答えを返してくる。水琴が雄一郎達に近付いてくると、事情を知らない葵はさらに質問を投げかける。

「二人で保健室に?水琴ちゃんたちどこか悪くしたの?」
「いやね、夏奈子ちゃんの調子はどうかなぁって見に行ってきたんだ。」
「えっ?夏奈子ちゃんがどうかしたの?」

水琴たちとは違うクラスで、話を全く聞いていない葵は、突然の話に驚くばかりであった。

「それがね、朝からなんだか元気がなかったみたいで、美術の時間に保健室で休んでるようにって玲ちゃんに送っていってもらったんだよ。」
「へえ、病気かなんかかな?」
「それがよくわからないの。別にどこが痛いとかも言っていなかったし。とりあえず休ませて様子を見ようって事になったの。」
「そっか、それで夏奈子ちゃんはどうだったの?」
「それがね…。」

言葉を濁した水琴は、少しだけ表情を曇らせる。

「なんだか早退したみたいなの。保健室にはいなかったんだ。先生に聞いたら早退したみたいだよって言われたの。」
「ふうん。誰かに送っていってもらったのかな?」
「そうかもね。先生も早退したっていう書き置きを見ただけらしいから。」
「そうなんだ。僕、全然気付かなかったよ。」

葵が納得したように言うと、ふと雄一郎が口を開く。

「俺も全然気付かなかったけどな。」
「それはしょうがないよ。だって私達のクラスにも全然連絡来てなかったんだから。」
「なんだかいなくなったみてえに帰ったんだな。」
「ほんと、連れてかれちゃったみたいに帰っちゃったね。」

そんな話をしていると、距離を置いて自分の席に座ろうとしていた玲が、独り言のように喋り出した。

「夏奈子は黙って行動するようなヤツじゃない。絶対、私や先生に連絡してくるはずなのに。絶対におかしい…。」

不安と苛立ちが混じったような声を漏らす玲。
少しの間、沈黙がその場を包むが、玲の様子を見かねた水琴が玲のそばに歩み寄る。

「玲ちゃん、それなら一緒に夏奈子ちゃんちにお見舞いに行こ。私も心配だけど、家の場所知らないからさ、一緒に連れていってよ。ね?」

水琴の言葉にしばし黙っていた玲だったが、落ち着いた声で言葉を返してくる。

「わかった。帰りに行こう。家まで行って確かめればいいんだ。」
「うん。それじゃあ一緒に帰ろうね。」

話がまとまると、その場の雰囲気も落ち着いたものに変わる。
話を終えた水琴は雄一郎の方に振り返り、戻ってくる。

「それじゃあ今日は一緒に夏奈子ちゃんの家までだね。」
「ちょっと待て。俺も行くのかよ?」
「だって、お見舞いの後私一人になっちゃうんだもん。」
「別に一人だって死にやしねえっつーの。」
「だって、女の子が夜道を一人で歩くのは危ないって、お父さんが言ってたもん。」

水琴の口からお父さんという言葉が出ると、雄一郎は聖斗との一件を思い出す。すると、雄一郎は溜め息をつきながら渋々承知した。

「俺も面倒なヤツに顔を覚えられたモンだなぁ。」
「お父さんも雄一郎君のこと気に入ってたよ。」
「いや、お前の親父のコトはもういい。」

こうして、昼休みの時間は終わりに近付いていくのであった……。




放課後の帰り道。太陽が西に大きく傾き夕日となる頃、玲の先導の下で雄一郎と水琴は道を歩く。
いつもなら別れて帰る交差点。いつもなら夏奈子と玲だけで帰る小道を雄一郎達は歩いていた。

「葵君、どこに行っちゃったんだろうねぇ?」
「さあな。あいつはたまにフラッとどっか行ってるからな。」
「ふーん、なんだか大変だね。」
「別にどうかしたってワケじゃねえんだ。大丈夫だろ。」

水田に挟まれた小道の先には、一戸建てが建ち並んでいる景色が目に入ってくる。新旧様々な家屋が不規則に建ち並び、都会に見られる団地とはまた違った印象を与えている。

「夏奈子ちゃんの家ってあの辺にあるのかな?」
「うん。ここからはちょっと見えないけど、白い二階建ての家が夏奈子の家。」
「玲ちゃんはよくこっちには来るの?」
「ここは通り道だから。私の家はもっと過ぎたところ。」
「そうなんだ。そしたら今度は玲ちゃんの家に行ってみたいな。」
「別に面白いものとかないよ、ウチは。」
「うーん、それでもまあ、見てみたいかな?」
「見るだけでもあんまり面白くないと思うけど。そんなに豪華ってわけでもないし。」
「夏奈子ちゃんとかは行ったことあるの?」
「うん、でもこっちに来るのはあんまりない。夏奈子の家に行く方が多いから。」
「そうなんだ。」

そうして話しているうちに三人は家々に囲まれた道に差し掛かる。
それぞれの家の敷地が決まった形ではなく、それに合わせて道も所々曲がっている。

また、分かれ道も多く、土地勘の掴みにくくなっている。初めて来た者にとっては、右も左もわからなくなりそうな造りになっていた。

「雄一郎君、ここら辺って道わかる?」
「さあな。来た事ぐらいはあるけどそんなに詳しくはねえ。」
「玲ちゃんは?」
「一応。毎日通ってるから勝手に覚えた。」
「へえ、すごいね。こんなくねくねしたところがわかるんだ。」
「周りの家の場所とか道路の感じとかで大体わかる。何回も通ってれば誰でも覚えられるよ。」

そう言いながら玲は、右へ左へと道を進んでいく。雄一郎達は周りをキョロキョロと見回しながらついていった。

「…着いた。」

玲はそう言ってある家の前で立ち止まる。
その家を見てみると、先程言っていたとおり、白い壁で今風に造られた二階建てで、どこにでも見かけるような、ひっそりとした一戸建てであった。

門の石柱に掛かっている表札には「雛森」と書かれている。

「ここが夏奈子の家。」
「ホントだ。雛森って書いてある。」
「つーか、名前がなかったら絶対わかんねえな。」
「私、ここに来るまでの道順覚えてないもん。」

三人は門を通り、ドアに近付く。手馴れた感じで玲が呼び鈴を押す。

――ピンポーン。
呼び鈴の音が響くと、家の奥の方から「はーい」という返事が聞こえ、バタバタという音が近付いてきた。

「夏奈子ちゃん、ちゃんと休んでるかなぁ?」
「早退したんだ。どっかに出かけてるってコトはねーだろ。」
「……。」

――ガチャ。キィ……。

ドアの施錠が外れ、開かれる。そこから覗かせたのは気立ての良さそうな中年女性の顔だった。夏奈子の母親である。

「はーい。あら玲ちゃん、いらっしゃい。」
「どうもこんにちは。」

お互いに和やかな雰囲気で挨拶をかわす。前々から知り合っているというのがはっきりとうかがえた。

「だけど今日は他にもお客さんがいるのね。」
「まあ、今日は道案内も一緒にってコトで…。」


しかし、夏奈子の母の一言で玲の表情は凍りついた。

「せっかく来てもらったのに悪いわね。夏奈子、まだ帰ってきてないのよ。玲ちゃんは何か聞いてない?」
「えっ……!」

玲だけでなく、その場にいた雄一郎と水琴も言葉を失った……。


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