藤崎流古武術伝




薬物猟奇

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「何言ってんだお前?」

水琴の言葉の意味が理解できず、雄一郎は思わず聞き返す。

「だから、夏奈子ちゃんを捜しに学校に行くんだよ。」
「は?なんで学校なんだよ?」
「うーん、よくわかんないけどそんな気がするの。」
「行きたきゃ勝手に行ってろ。学校はもう閉まってんだ。」
「全部?」
「ああ全部だ。全部の戸やら窓やら全部見たけどダメだったんだよ。」
「そうなんだ…。」

水琴は少し考え込み、頭の中の言葉をそのまま口にする。

「先生達もみんな帰っちゃったのかなぁ?」
「さあな、車は一台駐車場に止まってたけどな。」
「へえ、誰の車かなんてわかる?」
「あれは最近見たから覚えてるな。確か、冴木先生じゃなかったか?」
「え?」

雄一郎が何気なく口にした言葉に、水琴の表情が固まる。

「ねえ雄一郎君。」
「なんだよ。」
「冴木先生は出張で明日まで帰ってこないはずだよ。美術の時間も敦先生が来てたでしょ?」
「なんだお前、俺が間違ってるって言うのか。」

水琴は呆然としながらも確かめるように言葉を続ける。

「そうじゃなくて、明日まで帰ってくるはずのない先生の車があって、学校の鍵が閉まってるのっておかしいよね?」
「さあな。車だけ置いてどっかに行ったんじゃねえのか?」
「一日で帰ってこれないほど遠いところに行くんだったら車じゃなくても電車くらいじゃない?だとしたら、車は駅に置くのが普通だよね?」
「知らねえよそんなの。」

雄一郎は水琴の話にまともに聞こうとしない。そして水琴も雄一郎の言葉を聞いてはいなかった。

「とにかく学校に行ってみよ!」
「だから、なんで俺まで一緒なんだよ。」

水琴は、雄一郎の手を無理矢理引っ張りながら学校へと歩き出していくのであった…。




太陽は完全に沈み、闇が空を染めている。静寂が周りを包み込んでいる学校に二人はやってきた。

校門を通り抜け、正面玄関とその周りをくまなく見回す。

「だから開いてねえって言っただろーが。」

渋々ついてきた雄一郎が呆れ気味に言う。それでも水琴は諦めない。

「うん、でももう一回調べてみようよ。」
「めんどくせぇな。」
「裏の方に行ってみよ。」

懸命に調べる水琴の後を雄一郎はフラフラとついていく。
校舎裏側の職員玄関にまわる。

水琴はそこから職員の下駄箱を覗く。

「やっぱり、見ただけじゃいるかいないかなんてわからないね。」
「フタ付きだからな。」
「しょうがないね。」

水琴はそう言って、すぐ隣の駐車場へ足を運ぶ。校舎の壁縁にぴったりとつけるように止めてある車が目に入る。

水琴はその車の持ち主を確かに覚えていた。

「冴木先生の車だね。」
「だからそうだって言っただろーが。」
「いつからここにあったのかなぁ?」
「さあな。先生の車のことなんていちいち気にしてられるか。」
「うーん……。」

水琴は車に近付き、車をくまなく調べる。窓から車内を覗き、車体の隅々まで見回す。

「うーん、変だなぁ……。」

しばらくの間そうしていると、煮え切らない表情で後方で見ている雄一郎の方に振り返る。

「とりあえず、入れるところがないか一通り調べてみよ。」
「勝手にしろ。俺はもうやったからいい。」

そうして水琴は、車の前にある一階廊下の窓から、体育館の方へとひとつひとつ調べていくのであった……。




薄暗がりの広い部屋。窓から差し込む月明かりだけがその部屋を映し出している。

机の上でアタッシュケースを開き、そこから注射器と針を取り出す人影。
その隣には、机の上で横たわる女子生徒。

その部屋に響いてくるのは、二人の男女の話し声だった。

その声を聞いた人影は、手に取っていた道具を再びアタッシュケースに戻す。

「こんな時間に外をうろつくなんて、育ちの悪い子供達だな。芸術品には程遠い…。」

人影はアタッシュケースを閉じる。そして、横たわる女子生徒をそのままにして部屋を出て行く。

「そんな悪い子供にはちょっと怖い思いをしてもらおうか。噂の変質者にね。フッ……。」

そう言って、部屋の引き戸が開けられる。暗がりの部屋には、女子生徒だけが残された……。




水琴の調査は未だに続いていた。一階の窓という窓を縦横無尽に揺さぶり、開くかどうかをじっくりと確かめている。

校舎の裏側を全て確かめ終えて、現在は校舎の表側まで来ている。
校舎の一番体育館側の部屋である理科室の窓を確かめていた。
雄一郎は、校舎前の花壇より後方の砂利道でその姿を見ている。

「うーん……。」

水琴はガチャガチャと窓を揺さぶる。鍵が掛かっているのがはっきりと見えているにも関わらず、なんとか開けられないものかと揺さぶっている。

「お前もしぶといヤツだな。ちゃんと閉まってるんだから諦めろよな。」
「でも、こうやって揺さぶってると、たまに鍵がずれて開いていくことがあるんだよ。」
「お前も地味に悪いこと知ってるよな。」
「ええっ?そんな事ないよぅ。」

そんな風に話し合いながらも水琴は窓を調べ続ける。

結局、窓が開く事はなかった。理科室の中をもう一度覗いてから水琴は窓を離れる。

「うーん、ここもダメかぁ。」
「いい加減諦めろ。これだけで何分かかってると思ってんだ。」
「でも、ここまで来たんだから一応最後までやってみるよ。次は家庭科室だね。」
「全く、いつまで待たせる気だ…。」

水琴は理科室の隣の家庭科室の窓に移動しようとする。しかし、校門の方を見つめたまま立ち止まってしまう。

「何してんだお前?」
「雄一郎君、あれ……。」

水琴が呆然としたまま見つめる先に雄一郎は視線を移す。すると、正面玄関の方から見覚えのある人物が歩いてきた。


不健康に肥えた体。汚れた萌葱色のコート。薄汚れた肌着とトランクス。
だらしなく伸びきった髪。垂れ下がった目つきにゆがんだ口元。

先日水琴を襲った変質者が、その時の姿のまま現れたのであった。


「あいつは、こないだの変質者じゃねえか。」
「なんで?どうしてここに……。」

雄一郎はただ見ている。水琴はその場を動けなくなっている。変質者はゆっくりと歩いてくる。

二人と変質者との距離が数メートルにまで迫ってきた。

うつろな表情で、だらけきった姿勢で、力ない声で変質者は喋りだす。

「た、たすけてくれ…。」


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