| 昼休み。教室には雄一郎と葵しかいない。この二人がする話と言えば、ゲームのことぐらいであった。 「はあ?アクションシューティング?」 「そう、『奇怪奇怪』っていうんだけど、巫女さんがやたらめったらお札を投げて妖怪をやっつけるゲームなんだ。」 「面白いのかそれ?」 「うん。操作は単純だけど結構奥深いよ。アクションなのにすごい弾幕だし。」 「なんでもかんでも弾幕にすりゃいいってもんじゃねえだろーによ。」 二人が話しているのは、今にしてみればちょっと古い、マイナーなゲームソフトのことである。 葵が気に入っているそれを、雄一郎に勧めているのであった。 「やっぱりシューティングだけじゃなくてアクションみたいな要素があるからいろいろできるんだよ。敵を倒すのにもやっぱりよけなきゃならない時もあるしね。」 「ふーん。まあ、あればやってみるかもしれねえけどな。」 「じゃあ今度の休み明けに持ってくるよ。わざわざ取りにウチくるのも面倒でしょ。」 「ああ、持ってきたらやってやるよ。」 安請け合いで約束を交わす雄一郎。 そこでこのゲームの話は終わってしまい、いつも通り、流行の格闘ゲームの話に戻っていった。 「あそこのガンフレ青キャンが難しいんだよねぇ。」 「ガードしたら完全にこっちが有利だからな。」 「ホントは最後の攻撃を直前ガードできればなぁ……。」 こうして昼休みの時間は過ぎていくのであった……。 「それじゃあ、明日と明後日休みだからってハメ外すんじゃねえぞ。」 「はーい。」 「先生さようならー。」 「さようならー。」 放課。帰りの挨拶とともに各々の生徒達が教室を出て行く。 雄一郎はノロノロと帰りの支度をしていた。 「あれ、雄一郎君、今日は居残りなし?」 ふと、隣の席の水琴が尋ねてくる。 「ああ、幸運にも今日はさっさと帰れる。」 「そっか。じゃあ一緒に帰ろ。」 「なんでそうなる?」 「なんでも。」 もはや断ってもついてくることを知っている雄一郎はそのまま会話を流すことにした。 支度を終えた雄一郎は、鞄を持って席を立つ。教室の出口へと歩いていくのを水琴がついてくる形となる。 教室を出て、昇降口へ向かうために廊下を歩いていると、目の前に夏奈子と玲の姿があった。それを見た水琴はすかさず話し掛ける。 「あ、夏奈子ちゃんと玲ちゃん。」 「?」 名指しで呼ばれた二人が振り返る。先に答えたのは夏奈子であった。 「あ、水琴ちゃん。」 「二人とも今日は帰り?」 「うん。」 「部活とかは?」 「今日は休み。っていうか、休み前だから男子が全然来ないんだ。」 「へぇ。」 いつしか、四人で固まって歩いていた。そのまま昇降口に辿り着き、校門を出る。細長い一本道を歩いていた。 「でね、剣道部の大原くんっていうのがね…。」 「ええっ!そんなことするの?」 「みんな見てるのに、わたし超恥ずかしいんだよ。」 「なんか剣道部ってすごいねぇ。」 昨日と同じく、水琴と夏奈子が前を歩く。その後を雄一郎がついていく。 昨日と違うのは、雄一郎の横に玲がいることであった。 夏奈子の方も、昨日のような視線の動きがない。玲がいるということで安心しているようであった。 「……。」 「……。」 楽しげな会話を繰り広げる水琴と夏奈子とは反対に、会話の雰囲気すらない雄一郎と玲。二人とも、前の二人を見ながら呆然と歩いていた。 「こないだなんて、投げた竹刀を木刀で打ち返してたんだよ。」 「うわぁ、それってなんか危なさそう…。」 「投げられた本人よりも周りの人が危なかったかな。」 前の二人の会話を眺めながら、ふと雄一郎が口を開いた。 「なあ氷川。」 「ん?」 突然の雄一郎の声に、玲は素っ気無く反応する。 「お前の親戚って変な奴なのか?」 「……。」 雄一郎のストレートな質問に玲は一瞬黙ってしまう。しかし、すぐさまあっさりとした返事で返した。 「別に。そんなんじゃないと思う。」 「真昼間に黒服着て学校に来る奴だから変な奴だろうってみんな話してたんだ。」 「ああそう。でも別に変な奴じゃないと思う。」 「そんな奴と何回も会ってるからどんな話してるのかってな。」 「別に。大したことじゃない。」 玲の答えはあくまでも素っ気無かった。むしろ、触れられたくないような雰囲気だった。 「別に俺には関係ねえだろうけど、そんなおかしな奴が何しに来てるんだか、気になると言えば気になるな。」 「……。」 玲はそれ以上答えなかった。親戚の話はそこで打ち止めとなってしまった。 やがて四人は昨日の分かれ道までやってくる。夏奈子と玲は別の道であった。 「じゃあ、また来週、学校でね。」 「うん、それじゃあ二人とも気をつけて帰ってね。」 「じゃあ、もう行くから。」 「藤崎くんはちゃんと送っていくんだよ。」 「はいはい、わあったよ。」 そうして、夏奈子と玲は細い道を歩いていく。夏奈子が語りかけ、玲がそれを聞き入れながら歩く様は、昨日の夏奈子や先程の玲と比べれば、それは穏やかなものであった。 雄一郎達も歩き出す。大通りに出て、そこからまた少し離れたところに水琴の家はある。 水琴の家に差し掛かったところで、不意に水琴が話し掛けてくる。 「そういえば雄一郎君って、明日暇?」 「まあ、別に用事はないけど。」 「それじゃあさ、明日ウチにおいでよ。」 「は?」 これには雄一郎も呆気に取られた。水琴の顔を見るが、嘘や冗談とは思えない表情をしている。 「明日暇ならさ、ウチでご飯食べようよ。」 「なぜにお前の家なんだ?」 「こないだのお礼もあるし、お父さんも会いたいって言ってたし、ご馳走するよぉ。」 水琴はなんだか楽しそうだ。こうなると中々断れないのを雄一郎は経験的に理解していた。 「家族ぐるみで食事かよ。俺はどこのお坊ちゃまだ。」 「いいのいいの。絶対おいしいもの食べさせるからさ。明日おいでよぅ。」 「だけどなお前…。」 「おーいーでーよー。」 いつの間にか、水琴は雄一郎の上腕の服を掴み、引っ張り回している。 駄々をこねてしまい、もはや断れる雰囲気ではなかった。 「わかったよ。明日来ればいいんだろ。」 「やったー!」 水琴は両手を上げて喜びを表現する。雄一郎は観念して溜め息をつく。 「それじゃあ明日、お昼ちょっと前に来てね。」 「はいはい。明日の昼前な。もう行くぞ。」 「うん、ご馳走用意して待ってるからね。」 雄一郎はそうして水琴の家を出た。水琴は満面の笑みを浮かべて手を振っていた。 水琴と会うこと自体はどうでもよかったが、家に招待されるのは雄一郎にとって予想外であった。会って何日も経っていない異性を家に呼び込むということが、雄一郎には信じられなかった。 少しばかり憂鬱な溜め息をつきながら、雄一郎は家に帰っていくのであった……。 |